二人椀久 (ににんわんきゅう)
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長唄。作詞:不詳、作曲:錦屋金蔵。初演:安永三年(江戸・市村座:当時の演目名は「其面影二人椀久」)
場面はどことも知れぬ、松の大木のある海辺近く。月がうっすらと照らすだけの夜道を男が一人あらわれます。彼の名は椀屋久兵衛、通称を椀久という大坂新町の豪商です。新町の遊女・松山と深くなじみ、豪遊を尽くしたために、親から勘当され、髻(もとどり)を切られて座敷牢に閉じ込められたものの、松山恋しさのあまりに発狂し、牢を抜け出してさまよい歩いているのです。 すると、どこからともなく松山が姿を現し、椀久に語りかけてきます。松山は今をときめく身でも、遊女の身は籠の鳥同様に自由にできないので、思うように貴方と逢えないのが恨めしいと切ない胸中を訴えます。そして椀久がかつて着ていた羽織を身に着け、片袖を椀久だと思って眺めているのだと言うのです。 場面はさらに明るくなり二人はかつての楽しい思い出を再現します。仲良く酒を酌み交わす様や痴話げんかなど二人の甘い仲を描きます。椀久が「闇夜が好きだ」と言えば、松山は「月夜の方が良い」とすねてみせる可愛い場面もありました。やがて『伊勢物語』にある在原業平と紀有常の娘の有名な恋歌を二人でしっとりと舞うのでした。 思いが高まるにつれて、眼目の二人のテンポのよい踊りになります。かざした手をヒラヒラとさせながら、互いに前後左右に入れ替わりリズミカルに展開する浮き立つシーン。「按摩けんぴき」という初演当時流行した歌や「お江戸町中見物さまの…」と、江戸の観客へのお礼の言葉も盛り込まれた歌詞に、三味線の音色が軽快に加わり、振りと曲の織りなす間の妙味が楽しめます。 華やかな廓遊びの模様を描くうちに、松山の姿が次第次第に遠のいていきます。椀久は手を伸ばして松山を腕に抱こうとしても手は空を切り、松山の姿は掻き消えてしまいます。後には松風の音が聞こえるばかり。一人残された椀久は寂しさにうちひしがれて幕となります。
「第91回女流名家舞踊大会」(国立劇場大劇場、主催:東京新聞 平成29年2月11日)にてご披露いたしました。
いつもの体力勝負の舞台と異なり、しっとりした舞台を初顔合わせの花柳 雅愛さんとお見せいたしました。初めて他流派の方との共演となり沢山勉強させていただきました。ページアップをまる1年忘れていたことをお詫び申し上げます。
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