演者:昭和大学第三内科 講師
丹野 郁先生
<講演会要旨>
はじめに
心房細動には大きく分けて発作性(自然回復する)、持続性(除細動で回復する)、永続性(慢性化したもの)の三通りがある。米国フラミンガム研究では70〜75歳にピークがあり、心源性塞栓症の原因の50%を占め、脳梗塞の原因の30%を占めており、また非弁膜性心房細動の症例の30%に脳梗塞が認められている。
心房細動の基礎疾患には虚血性心疾患、高血圧症、心臓弁膜症などがあり、肺炎・甲状腺機能亢進症・アルコール性などの心外性のものもある。また、基礎疾患のない"loan"(個発性)の心房再動も2〜30%あるといわれている。
●内科的治療
1)原因・基礎疾患の除去
2)治療を行う理由
心房細動は直接死に結びつく疾患ではない。しかし、心房細動のない群に比べて5倍の脳梗塞発症のリスクがあり、また心不全の10〜35%を占めており、心室機能低下もきたしやすいとされている。また、心房細動があるだけで男性で1.7倍、女性で1.8倍死亡率が上がり、生命予後が悪い。また、心房細動の存在によりQOLが下がることも治療を行う理由となる。
3)抗凝固療法の必要性
心房細動に伴う脳梗塞発症を検討したいくつかの大規模研究では、ワーファリンの有用性が認められており、出血の合併症も日本での研究をのぞいてあまり指摘されていない。これに反し、アスピリンは有用とは認められなかった。リウマチ性弁膜症・65歳以上・高血圧症・糖尿病・心不全・脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往・左房径50mm以上などのリスクのうち一つでも存在するならワーファリンを使用することが望ましい。しかし、現状ではまだ実施率が低いことが問題と思われる。大規模研究ではワーファリンのコントロールの指標として用いられるPT-INRは2〜4.5となっているが、本邦では1.5以上を目標とすべきで、これが1.5未満だとイベント発症率が上がる。
まだ臨床治験の段階だが、トロンビン抑制剤のXimelagatran(アストラゼネカ)を用いた研究では、ワーファリンよりも血中濃度が一定化しやすく、イベント抑制の有効性が認められつつある。
4)洞調律維持(Rhythm control)か心拍数維持(Rate control)か
洞調律維持療法には、症状からの解放・運動能力回復・抗凝固療法不要・心筋等のリモデリングを望めるなどの利点があり、心拍数維持療法にはリスクやコストが少ないといったメリットがあり、どちらが有用か以前より議論の対象となってきた。ワーファリン治療を前提とした欧米での3つの大規模研究では心拍数維持療法のほうが死亡率は僅かに低い傾向があるものの優位差はなく、また脳梗塞の発症に関してはまったく差がなかった。運動耐容能の検討では洞調律維持のほうがより良い結果が得られた。また、QOLの改善度は両群間で差異がなかった。いずれにしても薬剤による洞調律維持は高齢者ではあまり考慮するべきではなく、若年者でも心エコーにて左房径・左室収縮率が低下していないことが選択の条件となる。
●薬剤によらない治療
1)カテーテルアブレーション
現在最も推奨される治療法といえる。肺静脈由来の心房細動を左房からの電気的隔離を目的として行う。急性期成功率は90%、ただし再発率が40%あり、慢性期成功率は70%にとどまる。そのほかに房室結節ブロック作成術+ペースメーカー移植術がある。適応としては薬物治療抵抗性または副作用のため使用不可能な心房細動である。さらに心房細動例でI群の抗不整脈薬により心房粗動化させ、心房粗動をカテーテルアブレーションすることにより洞調律にもどすHybrid
threrapy(抗不整脈薬+カテーテルアブレーション)が有用である。
2)ペースメーカー
ペースメーカー治療はBachmann bundle pacing、Dual site pacingなどが現在、検討されている。一般的には洞機能不全症候群の心房細動においてDDDやAAIペースメーカーがVVIペースメーカーより心房細動、更に脳血栓症の発症の抑制に有用であるといわれている。
3)AICD(体内埋込み型カウンターショック装置)
心房細動に対する適切な装置・方法がまだ実用化されていない。
4)外科手術
Maze ope、Radial opeがあります。どちらも心房を複雑(迷路状)に切開、凍結し心房細動を抑制する手術である。この治療自体の成績は良好で90%以上の洞調律維持が可能と言われている。しかし開胸しする点、手術のため心臓を停止しなくてはいけない点、心房を複雑に切開、凍結するので心房機能が低下する点などから、心機能低下例に適応はなく、現在では弁膜症の弁置換手術時に同時に行われているのが大半である。
書記あとがき
最先端のデータをもとにされた講演で、集まった先生方も熱心にメモなどをとられていました。また、講演後の討論も活発でした。さらに、終了後には会員の先生が持ち込まれた症例に対しご検討をいただくなど、非常に有益な講演会でした。書記の当番にあたっていたため原稿ができ、医師会誌「江戸川」だけではもったいないため、アップさせていただきました。ご参考になれば幸いです。