Lectures from Memezawa Medical Clinic

江戸川区医師会検査センターニュース掲載(2004.09)

頭痛update 2004

<患者さん向けではなく、医師向けの内容となっております。どうぞご留意ください>

目々澤醫院
目々澤 肇

■頭痛をとりまく諸問題
 ここ数年、「頭痛」がらみの話題がにぎやかである。3年前、鳴り物入りで発売された経口トリプタン剤「イミグラン錠」、「ゾーミッグ錠」は、「潜在する片頭痛患者さんは数多い」という頭痛専門家のアドバイスもあり、かなりパブリシティにお金をかけた。さらに「レルパックス錠」、「マクサルト錠」、「イミグラン点鼻」も加わり、処方可能なトリプタン剤はよりどりみどりの状況である。また、国際頭痛学会からは頭痛の分類第2版「ICHD-II」が上梓された。メディアでも熱心に頭痛が取り上げられ、ネット上の頭痛のサイトも無数に現れた。脳卒中救急に熱心な近畿地区を手本に、九州地区では「頭痛ネットワーク」と称し、急性頭痛に潜む脳卒中を拾い出し、慢性頭痛の的確な診療指導を行う救急病診連携システムが稼働した。
 ひるがえって、東京は静かである。情報はある。薬剤もある。救急車を呼べばクモ膜下出血なら脳外科へ、また脳梗塞らしければ内科へ、とすんなり搬送してもらえる。だから、頭痛ごときにただでさえ忙しい内科診療のチェアタイムを長く浪費するわけにはいかない。まして、高い薬価を納得させてトリプタン剤を処方しても、約半数の患者は「効かない」と文句を言ってくる......。しかし、慢性頭痛に対して指導的な立場を有する医療機関は城東地区では数少ない。
 というわけで、差し出がましいようですが小生の経験から頭痛診療へのアドバイスをいくつか。

■頭痛についての一問一答

●トリプタン剤はこれまであったエルゴタミン製剤より本当に有効か?
 自信を持ってイエス。これまでエルゴタミン製剤で服薬のタイミングを逃して苦しんでいた数多くの「由緒ある」片頭痛患者さんたちが口をそろえてトリプタン剤を評価している。嘔気の発現も有意に少ない。また、エルゴタミン製剤からトリプタン剤に変更すると約半分以下の頓用回数で済むようになる。

●何種類もあるトリプタン剤をどう使い分けるか。
 片頭痛の患者さんたちはクスリの選り好みが強い傾向がある。できれば何種類か使い分け、自分にあったクスリを見つけさせるのがベスト。

●片頭痛にはトリプタン剤だけを出せばよいか?
 ノー。片頭痛はもともと予測不可能な状況で生じることが多いが、痛みの間歇期にもカルシウム拮抗剤(ロメリジン)やβブロッカー(プロプラノロール:適応外)・SSRI(一部に適応薬あり)を服用させておくと発作頻度を下げることができる。間歇期の服用は患者さんが嫌がるが、トリプタン剤連用による中毒性頭痛発症の報告もあり、ぜひ一般化させる必要がある。

●群発頭痛にトリプタン剤を使用してよいか。
 まだトリプタン剤は群発頭痛に対する適応拡大を済ませていない。しかし、トリプタン剤が有効な群発頭痛の症例は数多く、何回かの処方で有効なトリプタン剤が確認できれば、発作が続く間は多少多めに使用させることもやむを得ない。その際はレセプトの病名欄に「片頭痛」、摘要蘭に「群発的に発作集中のためトリプタン剤使用頻度が高かった」と記載することが望ましい。

●緊張性頭痛との診断に苦慮した場合、診断的にトリプタン剤を使用してよいか?
 条件付きでイエス。実際に片頭痛と緊張性頭痛が同居する混合型頭痛の患者さんはかなり数多い。しかし、高齢者のケースでは片頭痛はありえない。虚血性心疾患を有しそうなリスクのある患者さんに対しては決して行うべきではない。

●混合型頭痛の症例にはどのような処方・指導をするべきか
 まず、本人に両方の頭痛の始まり方・痛み方の違いを認識させる。痛み止めとしては緊張性頭痛にNSAIDsを、片頭痛にトリプタン剤を処方し、のみ分けを実行させる。痛みのない時期にも精神安定剤(エチゾラム・SSRI等)を夕食後に服用させ、片頭痛が多く起こる場合にはカルシウム拮抗剤(ロメリジン)を持たせておく。

●慢性頭痛に画像診断の必要性はあるか?
 イエス。一度も検査を受けたことがない頭痛症例は速やかに検査を実施すべき。患者の不安(の一部)を解消することができる。かつては「CT(またはMRI)で異常がないからあなたの頭痛は心配ない」と取り合わない神経専門医もいたと聞くが、現在のネット情報の氾濫する時代では通用しない。「頭蓋内に異常がない」とわかった時点が慢性頭痛治療のスタートポイントである。

●慢性頭痛は片頭痛と緊張性頭痛がほとんどか?
 絶対にノー!三叉神経痛・後頭神経痛・側頭動脈炎・副鼻腔炎による頭痛など、数多い。痛みの部位・起こり方・現病歴などの注意深い聴取で診断が可能。ところで、頭痛の画像検査時には「brain」だけでなく「brain+sinus」が必須。

●頭痛のための病診連携ネットワークは必要か?
 絶対にイエス!心筋梗塞のためのネットワークはかなり東京では充実したが、脳梗塞超急性期のrt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)による血栓溶解療法の適応拡大を前にして脳血管障害のためのネットワーク造りが急務である。この機会に慢性頭痛の診断・指導システムを交えた九州型頭痛ネットワークが出来ることが望ましい。なにとぞ会員各位のご協力を仰ぎたく存じます。


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