どんな「ボケ」があぶないか

*これは、院内配布されたものを掲載しています

Vol. 007

2002.08.05発行

編集人:目々澤肇

禁無断転載

誰でも、自分の体が老いることには恐れがあります。とりわけ、自分の「老い」を自覚するのは、記憶の障害ではないでしょうか。記憶障害の最たるものが「ボケ:痴呆」です。もし自分がボケてしまったら......。でも、その記憶の障害にも、病気につながるものとそうでないものがあります。

●痴呆の見分け方
 「ついさっき話していたことを忘れる」という症状で来院された患者さんを診たとき、医師はいろいろな記憶の仕方について検査をします。最も簡単な痴呆の検査が「長谷川式」と呼ばれる検査です。30点満点のこの検査で、20点以下だと痴呆の疑いが濃くなります。そして、この状態がどのように始まったか、また実際に起こっていない出来事をあたかも本当の出来事のように認識していないか(妄想)などをご家族から聞き出して診断をします。場合によってはCTやMRIなどで脳の検査をすることもあります。こうして検査を進めると、80%近くが「心配ない記憶障害」と判断されます。

●心配ない記憶障害
 人間の脳は、年齢と共に記憶の容量が少なくなります。若い頃のどうでもよいようなことは覚えていても、最近知り合った人の名前はすぐに忘れる、というのはその典型的な状態です。つまり、記憶の奥底に書き込まれた記憶は薄れにくいものの、最近の記憶は出入りが多いため脳にしっかり書き込まれず、忘れてしまいがちです。これは、人の名前のど忘れや、予定のすっぽかしなどにも共通します。でも、これらはその人と話したり、事実を確認すると、「ああ、そうだった」と再認識が可能です。では、そうでないときは?

●あぶない記憶障害
 ご家族や友人と交わした約束も、すっかり忘れてしまい、「そんなことはない」「みんな私をだまそうとする」などと訂正不能な勘違いを伴うと、あぶない記憶障害の仲間入りです。こういう状態だと、衣類を着る順序を間違えたり、いつも何気なくできていたお料理の手順を忘れてしまったりします。自分の伴侶をもう亡くなっている親御さんとと誤認識したり、ご自分のお子さんの名前を言えなくなったりという人物認識の障害もあぶない状態です。

●治療ができる物忘れ
 「正常圧水頭症」という病気は、割と急速に進行する記憶障害を伴います。ただし、CTなどで診断が可能で、脳外科的な治療を早めに受ければ回復が可能です。しかし、脳梗塞による「血管性痴呆」や「アルツハイマー病」による物忘れは進行性で、直りにくいとされています。しかし、血管性痴呆には脳梗塞に使う薬剤、アルツハイマー病には専門の薬剤を使用することにより若干の改善や進行の一時的な抑制をすることができます。ただし、こうした薬剤の選択には細心の注意が必要で、先にも記したとおり、CTやMRIによる診断が重要です。

いずれにしても、「あやしいかな」と感じたらご相談下さい。ただし、ご自分で「あやしい」と思って来院された痴呆の患者さんはほとんどおられません。本物の痴呆の患者さんは大抵がご家族が「どうも様子がおかしい」とお連れになるケースがほとんどです。剣呑、剣呑。

 

<こちらも一緒にご覧ください>

日経ビジネス 2003年4月号掲載「物忘れにも『警戒レベル』あり」


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